「健人の寂しさに、湯本さんが気付いてくれたことをとても嬉しく思います。…でもそうか、心理や教育などを勉強なさっていたんですね。それならば、そういう目が育っていてもおかしくはありません。」
「…ご両親は、…。」

 綾乃の声が震えた。

「健人が高校1年になった夏、交通事故で亡くなりました。」
「……、そう、だったんですね。」

 大切な人を亡くしているから、誰かが自分に心を向けてくれることに対してあんなに感謝ができる。年の割に落ち着いて見えたのも、そうならざるを得なかった部分がきっとある。

「…時折、寂しそうな、不安そうな顔をするなとも思っていて…。すごく、納得してしまいました。大事な人を失う辛さや痛みが…あったんですね。」
「それを湯本さんに見せているのだとしたら、健人もかなり心を他人に開けるようになったと思いますよ。まぁ、この辺りはいつか健人から聞いてほしいものですが、高校生の時はもっと暗くて、大変でしたから。」
「そりゃそうですよ…明るくなんてなれないでしょうし、誰かに優しくするなんて…絶対できない。」
「…そうですね。呼吸がやっと。学校には行くけれど、それなりに人付き合いはするけれど、特に親しい友達も作りたがらない、恋をしたり、部活に勤しんだりすることもない。誰かを特別に、大事だと思うことは健人にとって無理難題だったと思います。」
「はぁー…でも、ずっと引っかかっていたものがなくなった感じがして、少しすっきりしました。時々時間があると、なんでなのかなぁって考えちゃっていたので。」
「気にかけていただいてありがとうございます。」

 オーナーは静かに頭を下げた。その姿に慌てて、綾乃は口を開いた。

「えっ!いや、ただの客の分際でここまで首を突っ込んで聞いてしまってすみません!健人くんが話してくれたら聞きますけど、自分から根掘り葉掘りは聞きませんので!」
「…聞いたらきっと、あの子は話しますよ、湯本さんには。」

 カランとドアの開く音がした。

「ああ、お帰り。」

 ドアから入ってきたのは健人だった。