「…やっぱりすごいなぁ、綾乃ちゃん。」
「え?」
「…目の前の綾乃ちゃんがいなくなっちゃったらって…あの頃の自分はそう思ってたから。」
「仕方ないことだよ。大切な人が一瞬でいなくなるってことを経験してるんだもん。そのあたり、私は経験がない分あんまりピンときてないからさ。私なら大丈夫!みたいな楽観的な気持ちはなかったけど、なんとかするぞ!絶対死なない!くらいの気合はあったかな。」
「…強いなぁ、綾乃ちゃん。」

 繋がれた手に込められた力がきゅっと強くなる。

「強くしてくれたんだよ、健人が。どんなに嫌なことがあっても、落ち込む言葉を掛けられても、健人のいっぱいの優しさとか愛情が全部受け止めてくれて、大丈夫だって思わせてくれた。一人じゃ全部、できなかったよ。」
「綾乃ちゃんの役に、ちゃんと立ててた?」
「もちろんだよ。ずっとずっと、家族のことを一番に考えてくれてありがとう。世界一のパパだよ。」

 にっと笑って、綾乃はそう言った。健人も小さく笑みを零す。

「綾乃ちゃんはずっと、世界一の恋人で、世界一のママで…世界で一番大切な人だよ。」

 それは綾乃にとっても等しくそうで、二人の関係に名前が増えていってもそれは変わらなかった。4年先を歩いていたはずなのに、今はこの人が隣を歩いてくれないと寂しくて、悲しい。健人がいない、そんな人生は考えられない。

「子供たちじゃないんだ、一番は。」
「…父親としてはどうなのかなって思うこともあるけど、でも綾乃ちゃんがいなかったら子供たちにも会えてないから…不動の一位です、綾乃ちゃんは。」
「それ、子供たちの前で絶対言っちゃだめだからね。」
「うん。子供たちは子供たちで大切だから。なんていうか、大切の枠が違う。…でも、綾乃ちゃんがいっぱい頑張って、新しいものをたくさん見せてくれて、ずっと傍にいてくれて…だからずっと幸せ。…これからももらった幸せの分以上に返していくからね。」

 これからも同じ歩幅で、同じものを見て、同じものを食べて、感想は違ってもきっと笑顔でいられる。そんな確信を込めて、綾乃は健人の手を離し、腕にぎゅっと抱きついた。

「へへ、嬉しいな。こうやって…えっと、仲良くできるの。」
「昔はいちゃいちゃって言ってたのに!」
「40越えてもいちゃいちゃって言っていいのかなって思っちゃって。」
「私しかいないよ?」
「それもそっか。じゃあ今日はいっぱいいちゃいちゃしたいな。」
「お家帰るまでね。」
「うん!…綾乃ちゃん。」
「なぁに?」
「今日も大好き!」

*fin*