「健人…?」
「…3人も宝物をくれて、綾乃ちゃんの人生に僕を混ぜてくれてありがとね。」
「…改まって、どうしたの?」
「20年前にプロポーズしたのかぁって思うと、ちゃんと言葉にしておいた方がいいかなって思って。」
「健人は割とずっと、思ったこと言ってくれてるよ。」
「じゃあ、今日改めて思ったことということで。」
「…そっか。じゃあ私も、今改めて思ったこと言うね。」
「うん。」

 目を閉じて、健人と揉めたとある日を思い出す。健人と喧嘩とまではいかないが、意見が食い違ったことは数少なく、だからこそ鮮明に覚えていることがある。

「…健人とさ、子供について考えようって話したときのこと、覚えてる?」
「うん。だってあれ、初めて綾乃ちゃんと喧嘩…じゃないけど、なんか変な感じになっちゃったやつ…。」
「私は子供が欲しいって言って、健人は子供は無理してまでは欲しくないっていう話をしたじゃん?」
「したね…。」
「綾乃ちゃんが死んじゃったらどうするのって言われた時はさすがにびっくりしたけどね。」
「…だって、妊娠も出産も命懸けだよ…。万が一のときに代われるなら喜んでって感じだけど、絶対そうはならないし。綾乃ちゃんがいないのに子供を育てられるとも思わなかったし。」
「そこまでちゃんと考えられる健人なら、万が一のことがあっても大丈夫だっていう確信があの時の私にあったことも確かではあるんだけど、でもね、あの時からずっと言ってなかったんだけど。」
「え、う、うん?」

 あの頃からずっと考えていたことがあった。自分にしかできなくて、健人にずっとあげたいと思っていたこと。

「…私ね、どうしても健人に家族を作りたかったの。私を新しい家族の一員にしてくれたお礼…っていうとなんか変だけど。私がもし、健人をおいて死んでしまうことがあったときに、健人を独りにしたくなかったの。だから子供が欲しかった。まぁこれは私のためでもあったんだけどね。健人においていかれたときに、一緒に健人のこと大好きだったよねって言いあえる仲間が欲しかったというか。」
「…そんなこと、ずっと前から思ってたの?」
「実は思ってました。というか、考えてました。でもそれはちゃんとそれなりに子供たちが育ってくれたら言おうかな~くらいにしか思ってなかったし。そもそもさ、自然妊娠したら子供を産む、不妊治療までは行わないっていうのがあの時決めた折衷案だったじゃん?だから妊娠するかも微妙だったし、無事出産までいけるかどうかも、その後しっかり育つかどうかも全部わからない状態だったから、あの時の考えを言ってもなぁとは思ってたかな。」

 自分も元気で、子供たちも元気に育ってくれた今だから言えることだ。