「あ、やっと降りてきた。そろそろ出ようかなって思うんだけど。」
「うん。待たせてごめんね。」

 丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。

「瑠生くん!?」
「そうそう。ひな、出てきて。」
「はぁい!」

 玄関にバタバタと走っていく日菜乃を見つつ、健人はキッチンに向かった。

「ほうれん草と…ベーコンのキッシュ?」
「うん。瑠生さんが好きだから。かなりお父さんの味に近いと思うんだけど、味見してもらってもいい?」
「うん。いただきます。」
「あ、暁人のキッシュ?私も食べたい!」

 綾乃は健人の隣にひょこっと立ち、味見用に小さく切られたキッシュにフォークをさした。

「美味しい~!」
「美味しい!」
「味、近いかな?」
「似てる感じがするけど、暁人のも健人のも美味しい!健人の方が柔らかめかも。」
「瑠生くんも喜ぶね。」
「暁人、ありがとね。色々作ってもらっちゃって。」
「ううん。お母さんもお父さんもゆっくりしてきて。」
「ありがとう!」

「来たぞ~ってめちゃくちゃいい匂いすんだけど?」
「瑠生さん用に多めにキッシュ作っておきました。」
「暁人~!お前はほんっといい子に育ったなぁ。」

 わしゃわしゃと髪が乱れるくらいには豪快に暁人の頭を撫でる瑠生。これも見慣れた光景だ。

「じゃあ、瑠生、あとはお願いね。3人ともはめ外しすぎないように。」
「わぁってるって。な、ひな?」
「いい子にしてます!」
「ぶりっこすんな!」
「うるっさい!」

 いつものが始まりかけて、綾乃はそそくさとリビングから退場した。若干なだめてから、健人もその後についていく。

「じゃあ、行ってきます。」
「瑠生くん、よろしくお願いします。」
「おう、任せろ。」
「いってらっしゃい!」
「僕たちのことは気にせず、二人でのんびりしてね。」
「気ーつけて!」

 全員に見送られて、綾乃と健人は玄関を後にした。

「じゃ、行こっか。」
「うん。久しぶりだね、二人で出かけるの。」
「まぁなんていったって今日は、プロポーズ記念日ですから!」

 特に毎回何かを祝っているわけでもない日ではあるものの、今回はぴったり被ったからその日にしようかと二人で話して決めたことだった。子供たちが大きくなって、それほど手がかからなくなった。瑠生に留守を任せつつ子供たちと一緒になって遊んでもらう日を設けられるようになって、こうして時々二人で出かけることもできるようになった。