―20年後―3月中旬

「今も昔も、ほんっとにママ一筋だったんだね。」
「そうだね。それにしても、随分懐かしいアルバムを引っ張り出してきたんだね、日菜乃(ひなの)。」

 同棲を始めた日、桜の下、誕生日、そしてプロポーズをした日に撮ったもの。数は決して多くはないけれど、積み重ねてきた思い出たちが写真と一緒に蘇る。写真が増えたのは、子供たちが生まれてからだった。

「ママとパパが結婚する前の写真ってほんっと少ないよね!」
「僕も綾乃さんも写真をいちいち撮るタイプじゃなかったんだよ、元々。でも暁人(あきと)が生まれてからというか、暁人が綾乃さんのお腹にいるってなってからはたくさんあるでしょ?」
「それはそうなんだけど~パパたちがラブラブしてたところ、もっと見たかったのに~。」
「僕の前ではいいけど、綾乃さんにそれ言うと怒られるかもしれないよ?」
「わかってるよ!だからパパに言ってるの!」

 日菜乃が再びアルバムをめくっていく。目を閉じると綾乃とアルバムをめくった過去を思い出す。写真はあの頃を確かに残してくれていて、懐かしさで胸がいっぱいになる。

「4月からは暁人がおじさんのところに行っちゃうでしょ?なんか、いまいち実感が湧かないんだよね。」
「そんなに遠くないし、土日でも遊びに行けるよ。」

 長男、暁人はこの春高校を卒業した。4月からは健人の叔父の元へと引っ越し、調理師免許を取得するために学びながら店を手伝うことになっている。長女、日菜乃は4月から高校2年生になる。家族の中で最も夢見がちでいったいどこからそのDNAは…?となるくらいには、『恋』や『愛』に憧れをもっている。

「父さん、母さんが呼んでるよ。そろそろ出かけるかって言ってた。」
「そんな時間か!」

 家族一の秀才、次男の博人(ひろと)。4月からは高1になる。綾乃に顔が一番似ている、やや生意気な年齢に差し掛かった末っ子だ。

「ひな、お前勉強しなくていいのかよ。」
「今日は土曜日なんですけど~?」
「曜日関係なく変な雑誌ばっか読んでんだろ、お前。」
「変な雑誌じゃなくてオシャレ!メイクとか髪とか勉強してんの!」
「外見じゃなくて中身をまずどうにかしろよ。」
「うるっさい!自分がちょっと頭いいからって!」

 年子ということもあって、一番衝突する姉弟だ。暁人ともそんなに年は離れていないのに、二人とも暁人とはあまり喧嘩らしい喧嘩はしない。