「綾乃ちゃん、返事はすぐ貰えますか?」
「…健人、本当に今でいいの?」
「どういう意味?」

 健人はまだ若い。大学を卒業したばかりの22歳だ。綾乃は26歳。健人の気持ちを疑っているわけではないが、綾乃に合わせて急がせたのだとしたら申し訳ない。

「…健人はその、若いから。私の年齢とか考えて焦らせたくはないので…。」
「綾乃ちゃんの年齢を考えてってよりは、…ただの独占欲だよ。」
「独占欲?」

 健人は静かに頷いた。

「彼氏、彼女っていうのも約束だけど、結婚ってもっと強い約束でしょ?ちゃんと公的な手続きを踏んで、正式に家族になれる結びつきというか…。…すごく重いことを言うけど。」
「うん。」
「ちょこっと話したこと、あるとは思うけど。綾乃ちゃんと過ごしながらずっと、やっぱり家族が欲しいなって思ってた。新しくできる家族の最初の一人は綾乃ちゃんがいい。恋人の関係はなくならないけど、綾乃ちゃんが恋人でも家族でもある人になってくれるのを、俺が待てなかっただけ。綾乃ちゃんのことを全く考えてないわけじゃないけど、俺の気持ちが優先されてるよ。」

 少し不安げに揺れた健人の瞳に気付いて、綾乃がそっと健人の頬に手を伸ばした。

「ならいい。健人がそうしたいって強く望んでくれたなら安心。」
「そこまで聖人じゃないよ、俺も。」
「そんなことないよ。健人はいっつも私を優先しすぎ。」

 むにっと健人の頬を軽くつねって引っ張ると、ふにゃりと健人が笑った。

「いひゃい!」
「たまにこういういたずらもするし、特に強くもなければ美人でもないし、普通の私だけど…。私と結婚してくれますか?」

 健人の頬から手を放して、今度は健人の手を上からぎゅっと握った。

「うん。ずっと隣を歩いてください。」
「…喜んで。」

 綾乃は乗せていた手を離して、健人をゆっくり抱きしめた。

「はぁ~…緊張した。」
「断られると思ってた?」
「断られるというよりは、待ってがかかるかなって。」
「だって、健人が待てないから言ったんでしょ?」
「…そう。」
「待たせないよ。だって、話すの頑張ってくれたのに。」
「…はぁ…。ほんと、そういうところ大好き。」

 不意に軽く落ちてきた健人の唇に、綾乃は静かに目を閉じた。