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 コンコンとノックをすると、いつも通りの明るい返事が帰ってきた。ドアを開けると、少し不思議そうな顔をした綾乃がいた。

「今日は瑠生の部屋じゃなくていいって?」
「綾乃ちゃんのところ行きたそうな顔してるって言われて…、実際その通りだから…。」
「素直で可愛い!それで、瑠生とは話せた?」
「うん。あと、お父さんとも。」
「あ、私とお母さんが出かけてる間?」
「そう。」

 健人は綾乃のベッドに座った。薄手の布団の中に入りかけていた綾乃は、出てきて健人の横に座った。

「何話したの?」
「一緒に住みたいなって考えてるってことを、自分から話したというか、一緒に住んでないんだっけ?みたいな感じで聞いてくれたから、その流れで一緒に住めたらなって考えてることを伝えたよ。」
「何て言ってた?」
「二人で決めたことをやってほしいって。たくさん勇気をもらっちゃった。…たくさん励ましてもらったというか、頑張ってるねって褒めてもらったというか…、うん。そういうの全部、嬉しかった。」

 綾乃は健人の頬にそっと触れた。そしてにっこりと笑い、口を開いた。

「…ね?健人のこと、うちの両親、絶対好きだもん。でもよかった。お父さんがそういうこと言うの、結構意外だけど。」
「そうなの?」
「なんだろうなぁ、自分からぐいぐいいくタイプの人じゃないから、見守ってることも多いし。健人が可愛かったから、ついいろいろ言っちゃったのかな。」
「年上のお母さんが昔モテてたらしくて、苦労したって言ってたよ。」
「えっ、そうなの?」
「だから、そういう自分が俺と重なって見えて、色々話してくれたのかも。」
「私はモテてないよ!」
「モテてたら、きっと俺なんて眼中になかっただろうからいいの。」

 そう言って、健人は頬にあった綾乃の手を取って、そのままぐいっと引っ張ってその体ごと抱きしめた。

「連れてきてくれて、…家族に紹介してくれてありがとう、綾乃ちゃん。」
「どういたしまして。」

 健人の背中に回った手が、ぎゅっと健人の体を抱き返す。

「家族って、あったかくて優しくて、こういうものだったなってことも一緒に思い出せた。」
「健人の家族とはだいぶ、テンションとか違ったと思うけどね。」
「雰囲気は違うけどでも、流れてた空気の温かさは似てるよ。どっちの家の空気も、好き。」
「…健人がそう言ってくれてるところ悪いけど、私は健人にこうやってぎゅーってしてもらってる空気の方が今は結構好きになっちゃってるかも。」
「…それは答えとして可愛すぎ。」