「充分、健人くんは綾乃の隣に並べていると思うけどね。それこそ今二十歳なんでしょう?僕の二十歳の頃なんか、もっとバタバタしていたというか、…やっと告白したかなぁ、とかそういうレベルで。詩乃さん、昔からモテてたんだけど我が道を行くタイプであまり恋愛には興味がなさそうで…、うん。大変だったなぁってことを今思い出した。」
「…僕、ちゃんとできてますか?」
「充分ちゃんとやってるように見えるよ。綾乃も君をすごく信頼してるし、何よりずっと楽しそうだ。」
「…つか、母さんってモテてたの?」
「そうだよ。勉強もできてスポーツもできて優しくて、誰とでも仲がよくて。周りにずっと人がいるような人。」
「…なんか色々やってたって聞いてたけど、モテてたとは聞いてねぇ。」
「こういう話、するようなタイミングもなかったしね。でも、綾乃の隣にいるのが健人くんで、僕はちょっと安心しちゃったな。」
「え…?」

 健人がきょとんとした表情を浮かべる。くすっと笑って、康生は話を続けた。

「まだ一緒には住んでないんだっけ?」
「え、…あ、あの、本当はその話をずっと、しようと思ってて。」

 思わぬパスが出て、健人もそれに続いた。

「綾乃さんと一緒に住む許可を、…いただけたらと思ってます。」
「二人が決めて、それが一番いいってなったのならそうしてほしいな。多分詩乃さんも同じように言うと思うし、健人くんじゃ反対のしようもないよ。あんなに優しい顔をして綾乃の隣にいてくれる。綾乃は誰かを頼ることが上手じゃない子だから、隠せないように見ててあげてほしいし、健人くんも甘えていいし、弱いところを見せてもいい。…僕なんかよりも、健人くんは充分ちゃんとやってるよ。自信をもって綾乃の傍にいてあげてね。」
「…はい。綾乃さんの隣にちゃんといられるように、頑張ります。」

 健人の肩にポンと軽く手を乗せて、康生は軽く微笑んだ。

「二人で丁度よく、頑張るんだよ。どっちかが頑張りすぎると疲れちゃうからね。」
「はい。ありがとうございます。」
「…なんか、めっちゃ父親って感じ…。」
「あのねぇ、確かに僕はあんまり父親らしいことはしてこなかったけどね?」
「ってか俺がちゃらんぽらんなのは父さんのせいかー!良かった、俺のせいじゃなくて。」
「いや、素養は確かに僕にあるけどね?でも基本は瑠生だよ?僕のせいじゃないから!」

 二人のやり取りに、健人も笑う。きちんと話すことができて、その上勇気までもらって、その温かさに報いたいと健人は強く思った。