* * *

「あれ、綾乃と母さん、どっか行った?」
「はい。買い出しに行きました。」
「一緒に行かなかったんだ?」
「…なんとなく、なんですけど。」
「うん。」

 綾乃の家に宿泊する最終日の夕方。リビングで健人は、綾乃から借りたアルバムを広げていた。そこに入ってきたのは瑠生だった。瑠生は健人の隣に座った。ソファが少し沈む。

「お母さんと話したいことも色々あるのかなって思って。綾乃ちゃん、僕に気を遣って結構一人にしないでくれたので。一緒に行くって言われたんですけど、アルバム見て待ってるよって言って残りました。」
「綾乃、結構気を遣うよな。見てないようで見てるし、それが余計疲れるってわっかんねーみたい。」
「僕は瑠生くんもいるし、綾乃さんのご両親もすごく優しくて、一緒にいてものすごく疲れるとかそういうのもない…って言えば変かもですけど。」
「うん。変じゃない。言いたいことわかってんよ。」
「ありがとうございます。綾乃ちゃん、普通に家族と話したいこともあるだろうなって思ったので、留守番です。」
「んで、懐かしいもん見てんだ。あれ、さっきまで父さんいなかった?」
「回覧板を届けに行くって。あ、帰ってきたかも。」

 ガチャリと音がした。しばらく経つと、リビングに入ってきたのはやはり綾乃の父、康生(こうせい)だった。

「あれ?珍しい組み合わせだね。綾乃とお母さんは?」
「二人で買い物に行きました。」
「わぁ、随分懐かしいものを見てるんだね。綾乃の小学1年生の時のアルバムだ。瑠生、何で泣いてるんだろう?」
「そんなの覚えてねぇー。」
「綾乃は小さいころからしっかりしてたね。瑠生とは違って。」
「はいはい、俺はどうせ綾乃と違って悪い子だったよ。」

 拗ねたような口調の瑠生に、健人と康生は顔を見合わせて笑った。

「綾乃は詩乃さんに似ちゃって、瑠生は僕の若いころに似ちゃったんだよね。瑠生も綾乃によく𠮟られてたけど、僕もよく詩乃さんに叱られてた。」
「え、あの…お母さんとお父さんは小さいころからのお知り合いなんですか?」
「うん。家が近所の幼馴染だったんだよ。詩乃さんは2歳年上の、優秀なお姉さん。僕は体育と数学しか取り柄のない、普通の人。」
「あのっ!」
「うん?どうしたの?」

 健人は思わず身を乗り出した。

「あの、もし迷惑じゃなかったら、お聞きしてもいいですか?どうやって、今の2人になったのか。」

 健人がそう問いかけると、康生はまた優しく微笑んだ。