「うわーすっごい久しぶり!」
「卒業してから一回もきてねーもんなぁ。」
「ここに通ってたんですか?」
「そう!やっぱり大人の足だと速いね。」

 オレンジ色の暖かな光が校舎に当たる。このくらいの明るさの時間帯に、小学生だった頃の自分は外で遊んでいた気がする。瑠生もだが、綾乃も学校にここまで近付いたのは卒業して以来だった。

「綾乃ちゃんは、どんな小学生だった?」
「ん-…そうだなぁ。」
「綾乃はスーパー優等生エリート。」
「何それ。」

 間髪入れずに話し出したのは瑠生だった。なぜか自慢げにそのまま話し続ける。

「勉強できる、運動会じゃリレー選手、水泳はちょっとだめだったけど代表挨拶とかでステージに立つこともある。そういうタイプの優等生。」
「…俺と全然違う…。」
「落ち込むな健人!俺も運動だけはできたけど、勉強は真ん中くらいだし。」
「運動も普通で勉強も普通だったんですけど…。」
「いやいや、そんなことないでしょ。絶対忘れてるだけだって。」
「…やっぱり綾乃ちゃんはすごい人だったんだ…。」
「やっぱり?」
「綾乃、お前実は健人の前であれだろ、いい人ぶってんだろ。」
「ぶってる…かなぁ?結構割と、力抜いてるなぁ、抜けてるなぁって思ってるけど…。瑠生の目から見て頑張ってる感じに見える?」
「いーや、全然。」
「でしょ?全部昔のことだよ。今は全然、いろんなことが昔よりできなくなって…。いっぱいだめなところ、晒してるでしょ?」

 いつの間にか離れていた健人と瑠生の手。綾乃とは繋がれたままだった健人の手に、きゅっと力が込められた。

「だめなとこ、ないよ?」
「そーそー。綾乃は色々考えすぎ。もっと自信もて。」
「…ありがと。」

 夕日を背にして、3人の影が長く伸びていく。

「今度は綾乃ちゃん、真ん中で。」
「えぇ?瑠生と手を繋ぐの?」
「なんだよ、照れんなよ。」
「照れてない!」
「ってぇ!綾乃はすぐ殴る!」
「別に健人のことは殴らないよ。瑠生はいちいちうるさいんだもん。」

 楽しそうな瑠生と、ちょっと怒った顔の綾乃。その二人を見つめているだけで、健人は幸せな気持ちになった。

「何?そんな顔するようなことあった?」
「二人が仲良くて、いいなぁって思って見てただけだよ。」
「健人と綾乃も仲良いし、俺と健人も仲良い。うちの家族は仲良いってことで。」
「…家族…。」
「家族だろ。俺はそうだと思ってんよ。って次中学行こうぜ、中学。」

 綾乃が健人の手を少しだけ強く握った。

「行こ、健人。」
「うん。」