* * *

「…人生ゲームとか、懐かし。」
「…こういうものがあるんですね…。」
「あ、やったことない?」
「うん。初めて見た。」

 昼食後、色々並べられたボードゲームの中から選ばれたのは『人生ゲーム』だった。最後にやったのがいつかは思い出せないが、保存状態が思いのほか良くて驚いた。

「健人、どれにする?車の色選んでいいよ。」
「じゃあ黄色にしようかな。」
「私赤~。お父さんは?」
「緑にしようかな。」

 この年になって、家族で集まって人生ゲームというのも妙に思えるが、健人がどことなくわくわくしているようだからよしとする。

「人乗せて、ルーレット回してゴー!」

 就職もあって、給料もあって、結婚も決まっていて。紙幣や子供が何の苦労もなく手に入る。ボードゲームだから当たり前といえば当たり前だが、本当の人生はルーレット一つでこんなに簡単には決まらないし、その節目ごとにいちいち悩んでは立ち止まる。そのタイミングはこの人生ゲームにおいてもおそらく同じで、強制的に立ち止まることになる。子供向けのおもちゃであるにも関わらず、大人になり、その節目を乗り越えたり直面したりしたことがあることを思えば、ただのボードゲームだったはずが違うもののようにも見えてくる。

「健人結婚一番乗り!はい、この女の子乗せて~。」
「ぐわー健人に先越された~!俺の方が先にいけそうだったのに…。」
「ここに差すの?」
「そうそう。子供が生まれるってマスに止まるとまたメンバーを車に追加していくよ。」
「なるほど…。」

 マスに書かれていることの内容も、初めてやる健人にとっては目新しいものばかりだったのだろう。自分がとまったマス以外のものもじっくり読んでいる。

「面白い?」
「うん。なんかいっぱい書いてて、つい目で追っちゃってる。」
「株価が上がったわ!株券を3枚持ってるから…15000ドルね。」

 お金が増えて子供のように喜ぶ母とは思えぬ母が可愛らしくて、綾乃は思わずくすっと笑った。

「男の子が生まれる。みんなからお祝いに1000ドルもらう。ってことで出産祝いください~!」
「あら、せっかく株で稼いだのに綾乃に持っていかれちゃったわ。」
「いやいや、1000ドルですからね。そんなに痛手じゃないでしょ。」

 子供が生まれるのも一瞬で、ただお金が回るだけの事象。子供の頃はお金が増えるイベントだくらいにしか思っていなかったが、大人になると1000ドル1回こっきり支援されたところで子供なんて育てられないだろうな、なんて現実的な思考が自然に出てきて、綾乃はそんな自分に笑った。