* * *

「綾乃と健人くん、お昼は食べてこなかったのよね?」
「うん。お母さんたちは?」
「せっかくだから一緒に食べたらいいかなと思ってまだ食べてないのよ。外に食べに行ってもいいし。」
「あの、もしよければなんですけど、僕がお昼、作ってもいいですか?」
「健人くんが?」
「健人は私よりも料理上手だから、健人に任せておけば美味しいものがどんどん出てくるよ。」

 健人の後ろに回り、ひょこっと顔を出しながら綾乃がそう言うと、綾乃の母である詩乃(しの)は微笑んだ。

「あら、じゃあ一緒に何か作りましょうかね。冷蔵庫には何が残ってたかしら。5人分同じものは多分ないと思うのよ。」

 綾乃は冷蔵庫を開けた。綾乃の後ろから健人も冷蔵庫を覗く。

「焼きそばが2人前、味噌ラーメンがあと1人前、ご飯の残りかなこれ。あとは冷やし中華3人前。」
「ご飯の残りでチャーハンを作りましょうか?ご飯、結構余っているみたいなので2人前くらいにはなるかなと。瑠生さんがたくさん食べるようでしたらラーメンか焼きそばもやって、好きなものを好きな分だけつまんで食べるのはどうでしょう?」
「いろんな味食べれて嬉しいやつだねそれ。」
「うん。残っているものをちょこっとずつ出すの、たまに綾乃さんとやるのを思い出したから。」
「普段も綾乃に色々作ってくれてるの?」
「たまにですけど、はい。綾乃さんと一緒に料理することが多いです。」
「…仲良く過ごしてるのね。じゃあ健人くんはチャーハンをお願いします。綾乃は瑠生とお父さんにそれで足りるか聞いてきてくれる?」
「はーい。」

 綾乃が去ったキッチン。気まずいわけではないが、健人の緊張はまだ抜けていない。

「あ、あの。」
「そんなに緊張しないでね。あ、調味料は冷蔵庫にあるものとそこの棚にあるものがあるので、好きなように使ってね。チャーシューは…あったわ!あとは卵と他にも入れたいものはあるかしら?」
「ネギはありますか?」
「ネギね、忘れていたわ。あります。これで足りる?」
「はい、充分です。この残りのご飯は全て使ってしまって大丈夫ですか?」
「ええ。…瑠生や綾乃から聞いていたからね、実は健人くんの作るご飯が食べれたら嬉しいなって思っていたのよ。あ、これは綾乃に内緒ね?お客さんに仕事させようと思ってたのって怒られちゃうかもしれないから。」

 くすっと笑う詩乃は仕草が何となく綾乃に似ている。その優しい笑顔に健人の緊張がわずかに和らいだ。

「綾乃さん、お母さんに怒るなんてことあるんですか?」
「あるわよ?この家ではね、綾乃が一番しっかりさんなの。健人くんの前ではそんなことはない?」
「あっ、いえ!綾乃さんはしっかりしてます。」
「あら、しっかりさんは健在なのね。」

 そう言ってまた柔らかく微笑む。手を洗う水の音が途切れ、ネギを刻むまな板と包丁の音に変わった。