＊　＊　＊

「…健人、折り入って相談が。」
「うん。どうしたの？」

　土曜の夜の、健人のバイト終わり。健人が風呂からあがってきたのを確認して、綾乃は声を掛けた。

「…あの、本当にうちの両親と瑠生がうるさくなってきてね…。」
「うん？」
「実家、1回帰ろうかなって思ってて。結構ずっと帰ってなくて。だから、健人も、…嫌じゃなかったら、行く？」
「行っていいの？」
「嫌な思いはさせない…と思います！多分！」
「嫌な思いなんかしないよ。綾乃ちゃんのご家族でしょう？」
「…嫌なことはしないと思うんだけど、多分絡み方がうざったくなると思うから…遠慮なく突き飛ばして。」
「そんなことしないよ。…あ、じゃあ俺からもちょっと、提案というか、お願いというか…。」
「うん。」

　健人は髪をタオルでごしごしと拭きながら、ソファに座った。

「…そんなに言いにくいこと？」
「言いにくいというか…お願い…になっちゃうんだけど。」
「うん。いいよ。なぁに？」
「…すぐじゃなくていいので、こうやって綾乃ちゃんのお家に泊まりに来るっていうのじゃなくて…その…、綾乃ちゃんと同じところに住みたいなって、思ってて。」

　どんどん視線が落ちていく姿が妙に可愛くて、綾乃は小さく笑った。神妙な態度をとられるとこちらとしても構えてしまうが、内容が内容だったため、綾乃はほっと胸を撫でおろした。

「…うん。そうだね。ここじゃ狭いから、もう少し広いところ探そうか。」
「えっ？」
「そんなに驚くこと？」
「だって、そんなにすんなり…？もっと、いったん保留とかになるかと思ってた。」
「なんで？私も一緒にいてくれた方が嬉しいもん。まさか、健人に先に言われるとは思ってなかったけど。」
「…綾乃ちゃんも、考えてた？」
「ちょっと考えてた。この前の件でもわかったけど、私たち、隠そうってしてるわけじゃないけどその…なんか上手に甘えられないから、距離がなくて、見せるもの全部見せるしかない状況にした方がいいのかなって。わざわざ来てもらって…みたいな遠慮とか申し訳なさみたいなものを物理的に減らせるならいいのかなーとか。」
「…いっぱい考えてる…。」
「健人よりすこーし大人だからね。」
「すごいな、やっぱり。綾乃ちゃんはかっこいい。」
「そう？そんなことないよ。でもとりあえず、オーナーさんにはお話ししないとだね。私の方からも。」
「あ、その話はえっと、叔父さんにはもうしてて。あ、考えてるっていうのをだけど。」
「そうなんだ！じゃああとは大丈夫かな。」
「…それで、その件を俺は、綾乃ちゃんのご家族にもちゃんとお話しして、許可をもらいたくて。」

　いつになく真剣な表情の健人の手に、綾乃はそっと自分の手を重ねた。