「…すごく好きで、大事な家族。それはやっぱり、ずっと変わらないかな。」
「うん。それでいいんだよ。嫌じゃないなら、今日じゃなくていいからもっと話して?思い出話も聞きたい。」
「ほんと?」
「ほんと。」

 さらりと揺れた健人の髪が、綾乃の額を掠めていく。

「思い出して泣いちゃってもいいよ。そこは心配しないでね。」
「…ありがと。あのね、綾乃ちゃん。」
「なに?」
「綾乃ちゃんの家族の話も聞かせてね。」
「え、私?」
「うん。瑠生くんからも色々話は聞けるけど、綾乃ちゃんからも聞きたい。」
「…瑠生~…変なこと喋ってない?」
「うん。いつも楽しい話を教えてくれるよ。あと、…ずっと。」
「うん。」
「いつ来るんだって誘われてる。」
「…実家に?」
「うん。」
「…連れて行きたくないとか、そういうんじゃないからね。誤解されたくないから言うけど。」
「…よかった。」

 健人が小さく息を吐いた。紹介したくないわけではもちろんなかった。そうではなく、単純に目に浮かぶからである。

「…あのね、うちの両親が多分…健人のことをものすごく気に入っちゃうの。」
「…どうして?」
「瑠生も別に悪い子じゃないけど、まぁ元気な感じだし、反抗期もそれなりにあって従順ってタイプでもないじゃない?そんな中、礼儀正しくて素直で優しい、まっすぐな健人が来たらもう、そりゃ、…喜んじゃうのよ、うちの両親は。」
「…歓迎してもらえるの?」
「そりゃあもう。それこそ私が話す隙間もないくらい、可愛がり倒すことは目に見えてる。…もうちょっとさ。」
「うん?」
「もうちょっと私だけが、可愛がってたいなー…って感じなの。」

 そう言って、綾乃は微笑みながら健人の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「…綾乃ちゃん、ずるい。」
「え?」
「ぎゅーだけじゃ済まなくなるよ?」
「!?な、なに言ってんの!」
「…キスも、いっぱいしたらもっとってなっちゃいそうで、我慢してるのに。可愛いことばっかり言う…綾乃ちゃん。」
「とりあえず寝よ。ごめん、変なこと言って。」
「…我慢するから、さ。」
「…なに?」
「俺が寝るまで、頭撫でてくれる?」
「いいよ。安心して寝て。」
「…うん。おやすみ、綾乃ちゃん。」
「おやすみ。」

 健人が静かに目を閉じる。それをそのまま静かに見つめながら、綾乃は優しく頭を撫で続けた。

「…ちゃんと、いるからね。」