「眠くなってきた?」
「…なんで?」
「なんか、手がいつもよりあったかい感じがする。」

 しばらくそのまま抱き合っていたが、背中に触れた手から徐々に伝わる熱がいつもより高い気がして、綾乃は腕を解いて健人の手をさすった。

「…あったかい?」
「あったかいというか、熱いね。熱出た?」
「ううん。出てない。ちょっと…眠い。」
「ちゃんとぐっすり眠れるね。」
「うん。綾乃ちゃんは、眠い?」
「…アルバム、明日見てもいい?」
「うん。一緒に見よ。」
「じゃあ寝る。」

 短い距離なのにするりと手が繋がれる。手がぽかぽかだ。

「綾乃ちゃん、先に入って。」
「健人のベッドなのに?」
「綾乃ちゃんちで一緒に寝るときも綾乃ちゃん先だから。」

 本当は綾乃用の布団をすでに用意してもらっていた。しかし健人は綾乃をそこで寝かせる気はないらしい。

「一人の方がぐっすり眠れるんじゃないの?」
「…ううん。綾乃ちゃんがいるってわかる方がよく眠れる。綾乃ちゃんも寝てるときあったかくてふにゃふにゃだよ。」
「…太ったってこと?」
「違うよ。どこ触ってもふにゃってしてて可愛いってこと。」
「…どこ触ってもってとこ、気になるんだけど?」
「ほっぺとか手とか腕とか…顔が多いかな。うん。ほっぺが多いと思う。」
「私で遊ばなくていいからちゃんと寝なさいね、今日は。」
「はぁい。」

 いつも通りにベッドに入り、薄手のブランケットをかけた。ひんやりとした素材のそれは思いのほか触り心地が良い。そんなことを思っていると、ゆっくりと健人の腕が伸びてくる。綾乃の呼吸が苦しくないように加減したその力の奥に、今日はいつもとは違う寂しさが見え隠れする。綾乃が少し視線を上げると、柔らかく唇が重なった。

「…一緒にいてくれてありがとう。」
「こちらこそ。ご両親のこと、話してくれてありがとう。写真見て、すごく安心しちゃったよ、私。」
「安心?」

 綾乃は頷いた。

「アルバムに書かれていた文字の丁寧さとか、ひとつひとつの成長を喜んでいる言葉とか。健人のこと抱きしめてるときの笑顔とか。すごーく大事に育ててもらったんだなって、何となくそうだろうなって思ってたけど、思ってただけじゃなくて確信に変わったというか。」