「ん?」
「重い?」
「ううん。重くないよ。」
「ちょっとこのままでもいい?」
「いいよ。ちょっとじゃなくても。」
「それ、前に言ったね、同じこと。」
「うん。すごく救われたから、お返しに使ってみた。」
「…救われるね、確かに。」
「アルバム見るの、平気?」
「うん。綾乃ちゃんの顔がずっと嬉しそうだから、思ってたより悲しくない。…でもやっぱり。」

 健人の腕が綾乃を抱きしめた。綾乃の肩に目を押し付けて、小さく鼻をすする健人の背をぽんぽんと軽く叩く。

「会いたいなぁ…。」

 ぽつりと落ちた言葉に、胸の奥が締め付けられる。綾乃は強く健人を抱きしめ返した。

「…お墓参り、私もさせてもらうことはできるかな?」
「え…?」

 潤む瞳に綾乃が映っている。瞬きをすると、健人の片目からは涙が静かに落ちていった。

「私もお会いしたいなって。お伝えしたいこともたくさんあるし。あなたたちの息子さんのおかげで私はこんなに笑えているし、毎日を幸せだと思えますって。たくさん愛情をかけて、大切に育ててくださってありがとうって、…今なら伝えたいかな。」

 いつかの綾乃のように、健人の目に涙が溢れていく。目元にそっと指をあててその涙を拭っても、涙は休むことなく流れ落ち続けた。

「…っ…っく…。」

 もう一度、綾乃は健人の体をそっと抱きしめた。

「泣き止むまでこうしてるし、泣き止んだ後もしてほしかったらずっとしててあげるからね。一人で泣かせないよ。寂しさはすぐに埋まらないの、仕方ないから。だから、寂しさが少しでも減るように、これからも手伝わせてね。」
「…これからも、一緒?」
「うん。一緒にいるよ。」
「…綾乃ちゃんは…。」
「うん。」
「俺より先に、いなくならないで。」
「…頑張る。なるべく健康に気をつける。でも、それを言ったら健人もだからね。眠れないとか、食べれないとかそういうの、健康じゃないから!」
「…ごめんね。」
「言われても心配だけど、後から知ったらもっと心配だから。…その時に言わないのは私も前科があるから強くは言えないけど…。」
「お互い様…?」
「上手にお互い、甘えられてないね、確かに。」
「俺、こうやって甘えてると思う、綾乃ちゃんに。」
「今はそうだね、甘えんぼ。」
「…多分ね、俺。」
「うん。」

 綾乃を抱きしめる健人の腕にきゅっと力が込められた。

「本当は寂しがりで、甘えたがりなんだと思う。」
「あはは、うん。そうかも。でも私のことを優先して、自分の気持ちを飲み込んじゃうことも多いと思うから、ずーっと甘えてるってわけじゃないよ。今は寂しがりで甘えたがりの自分がいっぱい出てきちゃってるターンなんだよ。だからいいの。」

 健人の頭を撫でると、綾乃の耳元で『ありがとう』と力のない声がした。