* * *

「それじゃ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。朝、ゆっくりで大丈夫ですからね。」
「はい、ありがとうございます。」

 寝室に向かうオーナーの背を見送り、健人の顔を見上げると小さく笑う健人と目が合った。

「一緒に寝てくれる?」
「うん。でももうちょっと起きててもいい?」
「うん。」

 ドアを開けて健人の部屋に入る。綾乃はくるりと健人の方を振り返った。

「健人くんの小さい頃がわかる写真ってある?アルバムとか。」
「あるけど、突然どうしたの?」
「小さい頃の写真が見たいなって。見せてもらってもいい?」
「…うん。いいよ。」

 健人は本棚から1冊、取り出した。

「これが一番古いアルバムだと思うよ。本当に赤ちゃんの頃の。」
「赤ちゃん!見たい!」

 軽く埃を払って、アルバムを綾乃に手渡した。綾乃は健人の部屋の中央にある低い丸テーブルにアルバムを置き、静かに表紙を開いた。

「可愛い~!えっ、可愛い!ちっちゃい~!2568グラム、51.2センチ。ちょっと細いかも。」

 笑顔でページをめくる綾乃のところに、他のアルバムも持ってきた。健人も綾乃の横に座って、随分長いこと見ていなかったアルバムを見つめた。

「お父様と、お母様?」
「うん。多分、叔父さんが撮ってくれたんだと思う。」
「雰囲気はお母様そっくりだね。でも髪の毛の感じとかはお父様かな。二人とも優しそう。」
「…うん。優しい両親で、あんまり叱られたこと、なかったな。」
「それは健人く…健人がいい子だったからじゃない?」
「臆病で泣き虫で、内向的で。いわゆる叱られるようなことを自らしていくタイプじゃなかったからかな。」
「そっか。あ、こっちのアルバムだと3歳くらい?」
「そうかな、あ、そうみたい。また泣いてるね。」
「ふふ、確かに。泣いてる顔も可愛いけど。」

 健人の頭が綾乃の肩の上に乗った。ふぅとゆっくり、そして長く吐く呼吸の音がした。