* * *

 いつもならばただ眠るだけの部屋に、こんなに緊張しながら入ることになるとは思わなかった。誘った健人本人がそれを一番自覚していた。綾乃に手を引かれてそのままベッドに腰掛ける。綾乃はいつも通り、先にベッドの上に乗った。

「健人くん、こっちきて。」
「…はい。」

 健人もベッドのふちに座るのをやめ、綾乃に向かいあう形で座った。

「健人くん。」

 綾乃は健人に向かって両腕を開いた。

「おいで?」

 健人が真っすぐに綾乃の胸にすり寄ってきた。少し距離があったため、いつもなら綾乃の頭上にあるはずの健人の頭が、綾乃の胸のあたりにあるのは新鮮だった。綾乃はそのまま頭を優しく引き寄せた。すがるように自分の背に回った健人の腕に、より一層緊張を感じた。

「大丈夫?」
「…大丈夫ではないかもしれません。」
「ふふ、素直。」
「綾乃さんは余裕そうに見えます。」
「だとしたら、健人くんがいるからだね。」
「どういうことですか?」

 綾乃は微笑んだ。

「信頼してるってことだよ。」
「…綾乃さん。」
「ん?」

 健人が綾乃の方に距離を詰めてきた。

「綾乃さん、僕のここの上に乗ってくれませんか?」
「えっ、お、重いよ?」
「重くないです。ちゃんとそれぞれが座ると微妙に距離ができてしまうので…。」
「それもそっか。…じゃあ、お邪魔します。」
「はい。」

 軽いあぐらをかいている健人の足の上に、綾乃はそっと乗った。またしても綾乃の方が視点が高くなり、健人を見下ろす形になる。

「…重く、ない?」
「全然。綾乃さん、最近ちょっと痩せましたよね?」
「…痩せてはない…と思うんだけど、夏バテが始まってて…ご飯しっかり食べてはないかも…。」

 綾乃がそう言うと、健人は綾乃をぎゅっと抱きしめた。

「…ちゃんと食べて。いきなり倒れたり、いなくなったりしたら嫌ですよ。」

 腕が緩み、自然と顔が近付いた。触れては近付き、甘い空気が充満していく。健人の頬に手を添えて綾乃の方から唇を重ねる。唇が離れる度にその唇の間に吐息が漏れ、互いの熱は高まっていく。

「…綾乃さん。」
「ん?」
「服、脱がせても、いい?」

 綾乃は静かに頷く。ただ、一人で脱ぐというのも心もとない。
 
「…私が先に脱がせていい?」
「うん。…あの、どうしたらいいですか?」
「えっと、あ、じゃあばんざーいってしてくれる?」
「こう?」
「そうそう。って腕長いな…よっと…。」

 なんとか上に着ていたTシャツ、そしてVネックの下着を脱がせる。薄暗い中でもわかる、自分とは骨格や厚みの違う体。思っていた以上に引き締まっていて、それも自分とは異なる性別であるということを自覚させた。

「…結構、鍛えて…る?」

 ぺたぺたとお腹周りを触りながら、綾乃が尋ねる。

「…大学入ってからは、…ちょっとだけ。少しでもその、綾乃さんにつりあう男になりたくて。」
「…ど、どうしよう、私全然、ぷにょってしてる…。お腹、こんなに引き締まってない!」
「そんなに僕もバキバキに鍛えてるってわけじゃないですよ。…じゃあ、次は綾乃さんの番ね。ばんざーい。」

 こんなことなら先に晒しておけばよかったと若干後悔しつつ、綾乃は目を閉じて手を挙げた。するりと抜けていくシャツ。キャミソールを脱いでしまえば、残されたのはブラだけだった。