「今年のプレゼントはこちらです。」
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「もちろん。」

 小さな紙袋の中には、小さな箱が入っていた。蓋を開けると、ダークブラウンの皮のキーケースが入っている。キーケースを手に取るとカチッと音がした。

「鍵…?」

 折り畳み式のキーケースを開けると、鍵が一つ、すでに取り付けられていた。

「うちの合鍵。いつも私が支えてもらってる側だから、健人くんにはあんまりそういうことないかもだけど、困ったときとか辛いときとか、泣きたいときとか、なんとなくお家に居にくいときとか、…その、特に理由なくても使って、うちにいていいからねという意味の鍵です。」
「もらって、いいんですか?」
「うん。いつでも使っていいよ。」
「会いたいとか、そういう理由でも?」
「うん。理由、なくても、うん、使って大丈夫。」

 健人はキーケースをゆっくりと箱に戻して、綾乃の方を向いた。

「…ありがとう、ございます。」
「ほしいもの、ないって言うから今年もまあまあ悩んだよ?」

 軽く笑いながら綾乃は言う。そんな姿が、少し涙で滲んだ。

「え?」
「あ、…すみません。本当に、嬉しくて。鍵ってなんかその、すごく大切なものだから。それを渡してもいいって思ってもらえたことが、嬉しいです。悪用、絶対しません。失くしません。」
「悪用しないのなんて知ってるよ。どれだけ私をずーっと大事にしてくれたと思ってる?…どんなときも、自分のことより私を優先してくれてたでしょ?…私が頼りないから、もしかしたら健人くんが私より自分を優先する日がなかなか来ないかもしれないけど、自分を優先するときがあって、いいんだからね?」

 涙をぬぐうと視界がクリアになった。はっきりと綾乃と目が合い、その細い腕を引きそのまま抱きしめる。

「…自分の気持ちを優先しても、いいんですか?」
「うん。すぐに飲み込んじゃうでしょう、健人くんは。飲み込まなくていいよ。」

 綾乃の手が、ポンポンと軽く健人の背を叩く。

「私ばっかりお願いを叶えてもらうのも変だし。欲しいもの、やりたいこと、見たいもの、何でもいいよ。」
「…欲しいって思う気持ちは…。」
「うん。」

 健人の手が綾乃のルームウェアをきゅっと握った。

「なぁに?大丈夫だよ、何言われても。」
「欲しい人は、綾乃さんで。…もっと触れても、いいですか?」

 綾乃だって鈍感じゃない。健人の意図することがわかって、健人をより強く抱きしめた。

「…もちろんだよ。」

 腕の力を抜いて、健人を腕の中から解放する。綾乃が少しだけ見上げると、いつもより頬の赤い健人と目が合った。

「…私もね、ずっと言おうと思ってたんだ。もっと触れたいよ、触れててほしいよって。…全部が上手くできるっていう自信もないし、その…別にスタイルもすごくいいってわけじゃないからそこはね、…うん、自信ないけど。でもね。」

 綾乃は健人の頬に手を伸ばした。

「健人くんとだったら、もし失敗しちゃってもごめんね、いいよって許し合えるかなって思ったの。私が何かを失敗したとして、健人くんが怒ったり、機嫌が悪くなったりすることはないかなって。私もね、健人くんに暴力とか振るわれたら怒るけど、健人くんはしないでしょう?健人くんが何か、上手くできなくても私は怒ろうとは思わない。…二人ですることだから、二人で、二人が納得したり自信をつけていくことができるように練習したりしていくのが一番いいかなって思う。健人くんは、どうですか?」
「綾乃さんに、昔の痛みや傷ついたことを思い出させてしまうかも、しれない、…です。」
「健人くんの優しさが、昔の痛みをそのまま受け止めてくれたよ。…もう、痛くないよ。」
「…我慢も無理も、してない…ですか?」
「うん。ずっとずっと、待ってくれてありがとね。…今日はちょっとだけ、いつもより長く起きてようね。」

 そう言うと、綾乃は立ち上がった。健人の手をぐいっと引き、立ち上がらせる。

「髪も乾かしてないし、歯磨きもしてないし、全部中途半端だったね。サングリア飲み終えたらちゃっちゃとやっちゃおう。ね?」
「はい。」

 綾乃の方から、健人の指に自分の指を絡める。目が合うと、健人は嬉しそうに小さく微笑んだ。