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 綾乃お手製の昼食を食べ終え、少し休憩した後にケーキを作り始め、作り終えた頃には3時を少し過ぎていた。スポンジから焼かずに、そこは市販のものにしておいてよかったと心底思った。そこからやり始めていたらこんな時間では終わらなかったことだろう。
 ソファに座ると、足首にはそれなりの疲労がたまっていた。思い起こすと朝から動きっぱなしの立ちっぱなしで、食事をするときくらいしか座っていなかった。

「あ、休憩がてら、ラスク食べませんか?」
「ラスク?」
「ちょっと気になっていたラスク屋さんで買ったものなんですけど、夜ご飯までまだあるし、ちょこっとくらいなら夕飯にも支障はないかなって。」
「うん。食べたい。頭と足が糖分を欲している~。」
「じゃあ、綾乃さんは休んでてくださいね。アイスティー淹れてきます。」
「いや、健人くんの誕生日だし、私やるよ!」
「今日、まだまだ綾乃さんと居れるから、ちょっと元気回復してください。朝から色々頑張ってたみたいですし。」
「う…ばれてる。」

 綾乃が素直に白状すると、健人は軽く笑った。視線は綾乃の方に向きつつも、軽快にアイスティーの準備を整えていく。

「ちょっとお昼寝しますか?」
「お昼寝!?」
「ケーキ作りながら、何回かあくびしてたし…。」
「えっ嘘!」
「ほんと。」
「…健人くんはお昼寝、したいの?」
「綾乃さんが一緒ならしたいです。」
「う~…じゃあ1時間だけ。絶対1時間で起きる。アラームかける。」

 綾乃はスマートフォンに手を伸ばした。1時間のアラームを準備する。
 程なくしてソファの前のテーブルにはアイスティーとラスクが置かれた。ラスクは一口サイズになっているタイプのもののようだった。一般的なラスクよりも少し色が濃く、ふわりと優しい甘さが鼻をくすぐってくる。

「準備、ありがとう。…いただきます。」
「僕も、いただきます。」

 サクッという音が二人の間に響く。顔を見合わせると、甘さが余計に増したような気がする。

「甘さ控えめで美味しい!えっ、これ美味しいね!」
「お口に合ったようで良かったです。結構売り切れることが多いみたいで、また見つけたら買ってきますね。」

 綾乃はコクコクと頷いた。ラスクにもっていかれた水分を補給するために、アイスティーに手を伸ばす。