「今日はたくさんお祝いするからね!」
「はい。」

 そっと手は離れ、二人がリビングへと歩みだす。

「あ、手を洗うの忘れてました!」
「洗面所、冷房きいてないからキッチンで洗っていいよ。涼んで。」
「ありがとうございます。」

 そこそこ汗をかいていた健人にとって、エアコンのきいているリビングは天国だった。

「涼しい…。」
「あはは、そうだよね。お風呂入ってもいいよ?シャワー浴びてくる?」
「…汗臭いと綾乃さんをぎゅっとするの、躊躇っちゃいそうなので借りてもいいですか?」
「もちろん。ゆっくりどうぞ。洗濯機に服放り込んでくれれば洗っちゃうよ。」
「僕、やりましょうか?」
「あ、じゃあ健人くんの洗いたいもの一緒に入れて、近くにある洗剤とか柔軟剤とか適当に入れてピッてしてください。」
「はーい。」

 洗面所の3段ボックスの一番上には健人の衣類が入っている。そこから部屋着を取り出し、バスタオルも棚から取り出して近くに置いた。下着はお互い、洗濯用のネットに入れて、衣類と混ざらないようにしようというのは二人で決めた。液体洗剤を適量入れてボタンを押してから、健人は風呂場に入った。少しぬるめのお湯を頭から被って汗を落としていく。
 綾乃が普段使っている女性もののシャンプーやコンディショナーの横には、二人で選んだ男女兼用で使えるタイプのものが並んでいる。それを見つめると、自然と笑みが零れてしまう。綾乃が前から試してみたかったものだったらしく、健人も使えそうならより試してみたい気持ちが強くなったというのが購入理由だった。健人が泊まるときや、健人と会うことが決まっている日の前日は必ずこのシャンプーを使っていると綾乃が話してくれた。泊まる日は綾乃の髪から自分と同じ匂いがすることが嬉しかった。
 ボディソープも2種類置いてある。さっぱりするタイプのものと、ふわりと柔らかく甘い香りのするものだ。一度だけ甘い香りがする方を使ったら、綾乃がくんくんと匂いを嗅ぎにきて、『この匂いがする健人くんもいいな~』なんて、妙なことを言っていた。香りというものに健人自身はあまり頓着がなかったが、綾乃のリアクションが変わるのが面白くて今日はどちらにしようかなんて考えてみる。

「…こっちにしよっかな。」

 綾乃の生活の中に、自分が少しだけ顔を出すものが増えていくことが嬉しい。そんなことを噛みしめながら、またシャワーを頭から被った。