「わしゃーがちょっとよくわからないけど、いいですよ。僕、どうしてたらいいですか?」
「うーん…あ、じゃあ、起きようか、とりあえず。」
「はい。」

 二人とも上体を起こして、座ったまま上半身だけ向かい合った。

「ちょっとだけ頭、下げてくれる?」
「こうですか?」
「そう!ではいきます!」
「はは、なんか楽しそう、綾乃さん。」

 健人の髪に指を滑らせ、髪がくしゃくしゃになるのも気にせず撫でる。まるで大型犬を撫でるかのように。健人は時々笑い声を漏らしながらも特に抵抗することなく、受け入れていた。綾乃がひとしきり撫で終わり手が下ろされると、健人がゆっくりと顔を上げた。そして綾乃の背に腕を回し、自身の胸に綾乃を押し付けるかのようにぐっと抱きしめる。静かに下りてきた健人の唇が、綾乃の頬に触れて小さく音を立てた。

「…1日の始まりに綾乃さんがいるってこんなに嬉しくて、ドキドキするんですね。」
「…心臓の音、よく聞こえる。」
「ちょっと速いですよね。」
「うん。でも私も人のこと言えないから。…昨日はありがとね。ずっと一緒にいてくれたことも、話を聞いてくれたことも、…一晩中抱きしめていてくれたことも、全部嬉しい。」

 抱きしめられたまま、綾乃はもぞもぞと動いて何とか顔を上げる。

「ありがとう。おかげでものすごく安心してよく眠れました。すっきり!」
「…良かった。綾乃さんの役に立てて。」

 綾乃が首を伸ばして、そっと健人の唇に自分のものを重ねた。

「…お礼のちゅーです。お礼になってるかわかんないけど。」
「お礼、もっと欲しいんですけどいいですか?」
「…あと1回だけね。お腹空いたからホットケーキ食べたいし。」
「じゃあホットケーキを作ったら、そのお礼ってことで1回がいいな。…うん。それでお願いします。」

 健人がベッドを出て立ち上がる。振り返って、綾乃にいつものように手が差し出された。

「手、繋いでください。今日もえっと…何だっけ…あ、いちゃいちゃ!いちゃいちゃしますからね、綾乃さん。」
「ふふ。うん。しよしよ。やりたいこと、たくさんやっていこう。」

 健人は綾乃の手をぎゅっと握った。