「…多分、私は…その、体を重ねることで気持ちよくはなれない、体質?みたいで。その類の話をされると、元彼に言われたこととかがぶわーっと蘇ってきちゃって…。あの時も泣いたんだけど、ちゃんと自分の中で納得ができていなかったのかな。振り切れてなかったのかな…?わかんないんだけど、その…健人くんとってなったときに、私のせいで気持ちよくなれなかったら嫌われちゃうかなとか、こういう体質とか、くっついたりとかしたくても自分からはなかなか言えないところとかも面倒に思われるかもしれないなとか…。…健人くんがそんな風に考える人じゃないってわかってるのに、多分どこかでずっと頭とか、心には残ってて。そんなことを考える自分も嫌で…。」
「…綾乃さん。」
「はい。」
「顔、上げれますか?」
「うん。」

 いつの間にか離れていた健人の手が綾乃の頬を引き寄せて、静かな空間に唇の離れる音だけが残る。

「…大好き。綾乃さんのこと、大好き。…もっともっと、大事にします。」
「これ以上大事にされたら、調子乗っちゃうよ私。」

 小さく笑う綾乃の頬に、健人の唇が触れる。

「大好きも大切も、伝わってますか?」
「うん。伝わってる。…本当はね涙が出てきてすぐ、健人くんのことが思い浮かんでて、あぁ…あのあったかい腕でぎゅーってしてほしいなって。甘やかしてほしいな、綾乃さんって呼んでほしいな、今のこのぐちゃぐちゃで嫌な気持ちも丸ごと全部、一緒にもってほしいな、…最後はちゃんと自分で立ち上がるから、その元気が出るまで傍にいてほしいって…思ってたよ。すぐに言えなくてごめんね。年上のプライドとか、過去のことが上手に話せてなかったからとか、色々あるけど…でも、気持ちはずっと健人くんに向いてたよ。」
「気付けるように頑張るけど、綾乃さん、隠すの上手だからなぁ…。だから、必要な時は呼んでください。必要じゃなくても…呼んでください。…全部忘れることはできないかもしれないけど、もうこれ以上傷つかないで、綾乃さん。」

 健人が真っすぐに綾乃を見据えて、口を開いた。

「同期の人とか、元カレさんに言われた言葉はきっと全部、正しくないから。綾乃さんはもう傷つかないで。自分で自分のこと、悪いって思わないで。綾乃さんは何も悪くないです。…泣いちゃうの、当然ですよ。」
「…はぁ…本当に、ごめんね。体を重ねるということに良い思い出がないから積極的になれなくて。」
「…僕が触るのは平気ですか?今のところ。」
「うん。平気というか、健人くんの手が優しいから好きだよ。」
「…良かった。嬉しい。綾乃さんの特別になれた感じがします。」
「健人くんは、…そうだね。本当に特別な人。私が出会った人の中で一番、穏やかであったかい人。」
「…綾乃さんは、一番可愛い人です。」
「私も、可愛いを追加しようかな。」
「えぇ?僕、全然可愛くないですよ。」