「今日は職場の飲み会で…苦手な同期とその後輩に絡まれちゃって。」
「席が近かったんですか?」
「それもあるけど、今日健人くんに作ってもらったお弁当が目に留まったらしくて。とてもじゃないけど自分で作ってるなんて言えなくて、…年下の彼氏がいるって話をしたらそこから話が広がっちゃって。」
「…あの、もしかして僕のお弁当が迷惑を…?」
「あ、違う違う!普段の私が作ってるお弁当よりはるかにすごくて美味しそうだったからつっこまれたの。健人くんのことを周りに広めてどうこうしようとか、…その、巻き込むつもりは全然なかったんだけど、私が上手に嘘もつけなくて…。」
「嘘?」

 綾乃は頷いた。

「自分で作ってますって言うのも嘘になるし、だからといって自分で作ってないと言えば誰が?ってなる。年下の彼氏に作ってもらってますって話したら、お弁当は彼女に作ってもらいたいものだって言われて、社会人の彼氏じゃないって言えば、年下なら女にがっつきたい年頃だから、相手をするのが大変だろうってバカにされる。…私がバカにされるのはいいけど、健人くんをそういう一般的な大学生の男の子に当てはめて話をするところも嫌だったし、…そういう、なんていうのかな…。」

 綾乃の片手に、健人の手が触れた。ゆるゆると指が絡まり、きゅっと握られる。

「健人くんはずっと、私のことを大切に想ってくれて、想うだけじゃなくて行動でもすごく示してくれて。絶対に同期たちとも前の彼氏とも違うタイプの人なのに…多分それはわかってもらうことができなくて。そのままそこにいたら、多分その、体の関係のことに話が飛躍しそうだったから、帰ってきたの。」
「…怖かったですね。」
「…そっか、私は怖くて泣いたのかな。」
「ぐいぐいくる人への怖さがあったのかなって。…他にも、心に引っかかってたことはありますか?」
「…健人くんとするのが、嫌とかそういうことではないんだけど。」
「はい。大丈夫ですよ、わかってます。」

 布団の中で握られていた手が一度離れ、上から握られる。健人の手に引かれるがままに布団から出された綾乃の手に、健人がそっと口づけた。