「あの、綾乃さん、荷物を置いても邪魔にならないところはどこですか?」
「あ、えっと…動くところこの辺だけだから、あとはどこでも大丈夫だよ。」
「わかりました。じゃあ、ここに置かせてもらいますね。綾乃さん、お風呂入りますよね?」
「でも健人くんもお風呂まだだよね?」
「はい。でも、まずは綾乃さんですよ。お湯ためて、ゆっくり浸かって温まった方がいいです。」
「お湯!やります!」
「はい。来たのはいいけど、僕が綾乃さんのお家でできることってあんまりないですね。すみません。」
「う、ううん!…来てくれたことが、一番嬉しいから。」

 綾乃は急いでお風呂に向かった。健人は荷物を置き、きょろきょろ見回し、キッチンへと向かった。

「綾乃さん。」
「はいっ!」
「お湯沸かしたいんですけど、飲み水はこの蛇口からの、浄水ってやつで合ってますか?」
「合ってます。」
「ちょっとケトルをお借りしますね。」

 健人はケトルに水を入れ、マグカップを二つ用意した。持ってきたカバンからカフェインレスの紅茶のティーバッグを2つ、取り出す。
 綾乃の方は風呂に湯を張るついでに化粧を落とす。健人は先に入るとは言わなそうだ。だとすれば綾乃にできることは手早く風呂を済ませることだった。薄手のコートを脱ぎ、寝室にかけに行く。下着やスウェットを持ってきて、風呂の準備を着々と済ませていく。リビングに戻ると、健人がキッチンに立っていた。

「勝手に色々触っちゃってすみません。綾乃さんがお風呂から出た後にどうかなと思って、カフェインレスの紅茶を持ってきたので。」
「ありがとう…。健人くん、喉乾いてたら先に飲んでていいし、何触っても全然問題ないから、好きなことしてね。」
「あの、冷蔵庫の中身、見ても大丈夫ですか?」
「えっ!?」
「明日の朝ご飯、何を作るか考えようかなって。」
「た、大したものがないかも…土日に買い物に行こうと思ってて…。」
「じゃあ、綾乃さんがお風呂入ってる間に近くの…あ、24時間やってるお店、ありましたねここ。そこに行ってきてもいいですか?」
「いやそんな…。」
「あーやーのさん!」
「はいっ!」

 健人が距離を詰めて、綾乃の頬に触れた。