「…僕は、綾乃さんが泣かせてくれたあの日から…泣きたくなったら綾乃さんに連絡しようって思うようになりました。綾乃さんは、…少しも僕のことは思い浮かびませんでしたか?」

 ぶわっと涙が出た。おそらく涙腺はもはや綾乃のコントロール下にはないのだろう。

「…思い浮かんでたよぉ…。飲み会の間もずっと…帰り道もずっと…健人くんのこと…考えてたよ…。」
「それなら良かったです。今度からは絶対、どんな時間でも連絡してくださいね。」

 健人がそのまま綾乃の顔を引き寄せる。こつんと優しく、額がぶつかった。

「こんな状態の綾乃さんが一人でずっと泣いてたってことを、綾乃さんは大人だから上手に隠せちゃうのかもしれないけど…隠さないで。綾乃さんが僕をそのまま泣かせてくれたのと同じように、そのまま泣いていいよって言える人になりたいので。」
「…ごめんなさい。」

 綾乃の頭を優しく撫でる健人はずっと笑顔だ。綾乃が瞬きをするたびに、雫がパタパタと音を立てて床に落ちていく。

「ずっとここにいると、綾乃さん、足が疲れちゃいますよね。いつもは帰ってきたらどういう流れですか?」
「ご、ごめんね!あがって!」
「はい、お邪魔します。」

 綾乃は強く両目を拭った。