「平気じゃないです。」
「ふーん、まぁでも、大学生男子なんていろんな意味で相性が大事だし。頑張ってね湯本さん。」

 はっきりと明言はしないものの、自分がわずかに気にしている部分が刺された気がして、心臓のドクドクという音が止まらない。

「実際最近まで大学生だった人のご意見は?」
「あ、僕っすか?…うーん…社会人の彼女がいたことはないっすけど、大学のサークルの先輩と付き合った時はすぐ別れちゃったんすよね。」
「原因は?」
「多分僕ががっつきすぎたというか…。まぁ、そんな感じっす。」
「だってさ。」

 綾乃は膝の上で両手をきゅっと握りしめた。頭の中には、かつての言葉がフラッシュバックする。

『お前って、全然気持ちよくなさそうでなんか萎える。』
『付き合ってみると案外面倒な女なんだな、お前。』
『お前じゃ興奮しないわ。』

 求められているのだとしたら、それに応えないと価値はない。そんな風に思っていたあの頃の自分が、急速に今の自分のところに戻ってくる。

「大学生の頃なんて考えてること一つだったしな。」
「え、何考えてたんすか?」
「お前と似たようなもんだよ。」
「あ、なるほど!」

 健人はそちら側の人間ではない。そう思っているのに、過去と今の目の前に転がる男の数に押しつぶされてしまいそうだ。

「…彼は、…そういうひとでは…ありません。」

 綾乃は顔が上げられなかった。涙が一筋、床に落ちた。