「……。」

 ジト目で土田を見ると、土田は小さく笑った。

「料理上手な彼氏なんだ?」
「…そうですね。」
「お弁当作ってくれる彼氏ってすごいね!羨ましい!」
「うちの旦那にも爪の垢を煎じて飲ませたい~。」

 会話の中心に自分がいて、しかも興味をひいているのが健人であるということが複雑だ。健人を好奇の目に晒したくはない。

「余裕のある年上?」

 からかうような土田の視線が元カレに重なって胃がキリリと痛んだ。その場にあったウーロンハイを少し飲んで、小さく息を吐く。

「余裕のある年下です。」
「へぇ、意外。湯本さんは年上タイプかと思ってた。」
「そうかなぁ。湯本ちゃん、しっかりしてるし年下でも全く違和感ないよ?」
「お弁当作ってもらえるなんて愛されてるねぇ。」

 女性の先輩方からは概ね好意的な意見が出てくる中、土田は怪しげな笑みを崩さないままだ。

「まぁー正直、弁当は作るより作ってもらいたいですけどね、男は。」
「何の話っすかー?」

 混ざってきたのは土田と仲の良い新入社員の金森だった。

「彼女に弁当作ってもらいたいって話。」
「うわ!最高じゃないっすかそれ。」
「彼氏に作ってもらうのも最高だけどね?」
「そうそう。男女関係ないからね。ね?」

 綾乃は静かに頷いた。他愛もない会話なのに、胸がざわざわして落ち着かない。帰って一人で静かに過ごしたい。健人にぎゅっと抱きしめてもらいたい。そんな考えが浮かんで、でもそれはできなくて視線が下に落ちていった。