「ひゃ!」

 綾乃の後頭部に柔らかく手が回る。額、右頬、左頬、そして鼻。次々降ってきたキスに綾乃は目を閉じた。最後に重なった唇へのキスは今までのものよりもずっと長かった。

「…可愛い。可愛すぎてどうしよう…綾乃さん。」
「健人くんもすっごく可愛いよ。」

 綾乃は健人にぎゅっと抱きついた。抱き返してくれる腕が優しくて、綾乃にとことん甘いことをもう知っているからできることだった。

「…僕、どの辺が可愛いですか?」
「ん-…目が合うとぱあって笑ってくれたり、ぎゅっとした後、すりすりってしたりするところ、可愛いなって思うよ?」

 軽く抱きしめられたまま、少しだけ視線を上げると柔らかい笑顔にぶつかる。額が優しく重なった。

「体勢的に仕方ないんですけど、綾乃さんが目を合わせるために見上げてくれると…。」
「うん。」
「こう、胸のあたりがきゅっとします。好きだなと思うし、大切にしたいし、…触れていたいって思う。」

 さらりと、綾乃の髪に触れた健人の手。指の隙間から髪が落ちていく。今度は綾乃が右手を健人の頬に添えた。そっと自分から重ねた唇。思いのほか緊張して、少し震えた。

「綾乃さっ…。」
「…私も、大切にしたいって思ってるし、我慢とかしてほしくないって思ってるよ。…いつも自分から色々言ったり、何かしたりできなくてごめんね。」
「…充分ですよ。キスも嬉しいけど、綾乃さんが抱きついてくれたり、甘えてくれてるなってわかる瞬間っていうのかな…体から少し力が抜けて、ふわっとしてるのが嬉しい。寝顔見せてくれたのも嬉しいです。前よりも近付けたなって思うので。」
「甘えてるのが、嬉しいの?」
「はい。すっごく嬉しいです。だから、いつでも甘えてくださいね。お弁当も色々作りたいなって思ってるんで。」
「健人くんの作ってくれるお弁当、本当に楽しみ。…ありがとう。」

 微笑めば微笑みが甘くなって返ってくる。それが嬉しくて、その気持ちが体中を駆け巡ってじたばたしたくなるときがある。そんな風に自分がなるなんて、思ってもみないことだった。