「じゃあ聞いてもいい?」
「はい。…あの、僕、両親を高校生の時に亡くしていて、それ以降のことがちょっと曖昧というか、ぼんやりしてるんですよね。高校は無難に卒業したんですけど、そういう誰かを好きになったり、好きになられたりというものからは疎遠な生活をしていたと思います。それどころじゃなかったというか…。」
「…なるほどな。だから健人は、健人の精一杯で綾乃を大事にしてくれてんだ。」
「大事に…したい人です。たくさん優しくしてもらいました。」
「健人も優しくしてんだろ。綾乃がさ、彼氏?って訊いてあんなにはっきりそう!って言ったの初めてだよ。」
「そう、なんですか?」

 瑠生は何度も頷いた。瑠生は立ち上がって、健人の隣に腰を下ろした。瑠生の手が健人の頭を乱暴にぐしゃっと撫でる。

「健人、自信をもて!」
「何もかも初めてなので、自信はなかなか…。でも、頑張ります。」
「うん。頑張ってほしい。んでさ、1個入れてほしいんだ。頑張ることリストに。」
「はい。」

 少しだけ瑠生のトーンが落ちて、眼差しが真剣なものに変わった。

「綾乃が泣きそうだったり、実際泣いたりしてたら…絶対傍にいてやってくんね?」
「…はい。綾乃さんが、僕を泣かせてくれたので、…できれば綾乃さんが泣くようなことは起こらないでほしいけど、もしそういうことになったら、傍にいますね。」
「うん。綾乃さ、めちゃくちゃ泣くの下手なんだよな。ぜってぇ一人で泣くし、目腫れててもろばれなのに泣いてないの一点張りだし。」
「…想像、ちょっとだけつきます。」

 あの時も、なるべく泣いた顔を見せないようにしていた。泣くのは苦手とも言っていた。おそらく本音は、そういうことではなかったのだろう。