「葡萄畑、とても良い考えかと存じます。あの土地だと良い酒ができるようになるでしょう」

 伯爵は驚いた顔で婿を見る。

「と、当然だ。土壌調査でそのように決めたのだ」
「ええ。とても理にかなっていると思います。ですが」

 彼は腰に帯びた飾り剣の柄にそっと触れる。

「理にかなってはおりますが、私や、お義父上含め貴族は陛下から領土を分け与えられる際、民を守る義務を負っているはずです。僅かな金品で、小さく弱い者を追い出すなど、領主としてあるまじき行為ではないでしょうか」

「は?我が領地の民をどう扱おうと、私の自由だ。彼らには今まで破格の値段で土地を貸していたのだ。契約書もある。契約更新がうまく進まなかっただけのこと。これは、正当な交渉だ!」
「そうでしょうか。寮をとり壊す際揉み合いになり、院長は怪我をしておりましたよ。とても正当な交渉とはいえないのでは」

 伯爵の額に青い筋が浮かんだ。反論されることに慣れていない彼は、ぎりぎりと唇を歪める。怒りで顔が紫になっていた。

「妖精あたまが能書を垂れるな!ここは私の、ベルリーニの館だぞ。陛下の受けがいいだけの、この、若造が!グリンデルに引っ込んでおれ」
「お義父様! セヴィリス様は立派な領主ですわ。村も街もみな、デインハルト家を誇りに思っています。旦那様は、魔物の脅威から民を守るために……っ私のことだって」