「セヴィリス様……」

「この数百年、国では聖騎士の存在は公にはされていない。あらぬ恐怖を煽らないためにと、国王陛下と聖教会の間で取り決められているからね。魔印に侵された令嬢を保護し守るために、聖騎士団の者で相談して決めた。……ともかく、こうするのが最善なんだ」

 彼はやけに熱のこもった早口で喋ると、ふ、と言葉を切った。

「でも、貴女にとっては理不尽なことかもしれないね……申し訳ない。危険な目に遭わせたうえに、聖騎士の義務などに巻き込んでしまって……」
 セヴィリスはしゅんと項垂れた。その姿さえ悩める精霊の王子のようだ。

「いえ、そんなこと……」

 言いかけて、リリシアは言葉につまる。自分の肩をもう一度確かめた。今ではなんとも不吉な印に見える。

(私の身を守るために求婚なんて……セヴィリス様はそんなご決断をなさったということ?)

 リリシアに限らず、貴族令嬢には将来を選ぶ自由はほとんどないに等しい。のけ者扱いだったリリシアは特に。だから、彼女は自分を望んでくれたことがほんとうに、純粋に嬉しかった。だがセヴィリスは、責務のために彼女を伴侶に望んでいた。

(なんだかとても、申し訳ないわ……)

 彼女は俯いた。不本意なのは、彼の方ではないだろうか。