グイッ



「ごめん、暮石に用があるんなら、今ここで言って」

「黒瀬くん……!」



黒瀬くんは私の手を引き、そして、自分の背中へ隠した。

まるで、花崎くんから私を守るように。



「いや、ちょっと……ここじゃ」

「昨日は、日比谷たちの前で暮石に恥をかかせたくせに。自分のこととなると、わが身可愛さで”人目を避けてお話ししたい”って?」

「そ、そんなわけじゃ!」

「あっそ。なら、今どうぞ?」

「……っ!」



花崎くんの顔がゆがむ。横顔に、汗が浮かんでいるのが見えた。



「えー、なになに?」
「なんかケンカっぽいよ?」
「あの花崎くんと黒瀬くんが⁉」



クラスのイケメン二人が争っているのは、一瞬でウワサになる。

さっきまで静かだった廊下が、今は野次馬でいっぱいになった。



「く、黒瀬くん……。も、いいからッ」

「よくない。俺は、暮石を傷つけられて、腹が立ってるんだ」

「黒瀬くん……」