ただ、ここは恋愛事で騒いでいい場所ではない。

職場で取り乱すのは社会人としてよくないという理性が、崩れ落ちてしまいそうな凛を支えてくれているのだ。

なんとか気持ちを切り替え、執務室へ足を向けようとした時、後ろから呼びかけられた。

「り……立花さん」

咄嗟に足を止めてしまったが、振り返るには勇気がいる。

唇をきゅっと引き結んで首だけで振り返ると、案の定あとを追ってきたのは孝充だった。

「はい、なにか?」

正直、面と向かって顔を合わせるのすら今は避けたい相手だ。

けれど職場であり、彼が上司である以上そんなことを言ってはいられない。

必死に頭を仕事モードに切り替え、凛はポーカーフェイスで孝充に向き直った。

「なにかって。そっちこそ、なにかないのか」
「……はい?」