(……それならそうと言ってくれればよかったのに)

秘書室から廊下に出て、ようやくはぁっと大きく息を吐き出す。

孝充は別れる際、理由を一切話さなかった。

仕事帰りによく行くカフェに呼び出され、淡々と告げられたのはつい先週のこと。

『凛との将来を考えられなくなった。だから別れてほしい』

ふたりの行く末に明るい未来はないと告げられ、それでも付き合いを続けたいと思うほど凛は盲目的ではない。

職業柄、普段は感情を表に出さないようポーカーフェイスを装っているし、四人姉弟の長女として育ったため甘え下手で、感情を出すのが苦手だ。

だからといって傷ついていないわけじゃない。

突然恋人から別れを切り出されれば困惑するし、そのわずか一週間後に他の女性と授かり結婚をすると聞かされれば、全身が震えるほどショックを受ける。

その相手が同じ秘書室の後輩だというのも信じられないし、いつから裏切られていたのかと考えると吐き気が込み上げてくる。