浮気されたあげく捨てられたのだと、一瞬で悟った。

それは凛だけでなく、周囲の人間も同じだろう。

同じ職場で秘書という立場から大っぴらに付き合っていたわけではないが、ひた隠しにしていたわけでもない。凛は周囲への配慮から隠しておくのがマナーではないかと控えめに主張したが、社内恋愛は禁じられていないという孝充の言に従った形だ。

さり気なく交わすアイコンタクトや、生真面目な孝充が凛に接する時にだけ笑顔が増えたことなど、周囲が察するヒントはいくつかあった。

秘書室のメンバーは気のいい人間が多く、なにも聞かずに交際を見守ってくれていたし、今も凛に対して不躾に好奇の視線を送ってくる者はいない。

しかし一様にどう反応すべきかと思考を巡らせているのは明らかで、居心地の悪さに気分がずんと沈んでいく。

(こうなる場合もあるからこそ、社内恋愛は他言しないのが暗黙のルールだったのに……)

内心でどれだけ後悔したところで後の祭り。大きな東側の窓からは温かな日差しが差し込んでいるというのに、情けなさと悔しさで身体がカタカタと震えだした。