「優しいとは言っても、さすがに秘書室内のいざこざを相談するわけにはいかないわよねぇ」
「それはさすがに。最悪、林田室長ですかね」
「立花さんに退職を迫るなんて、あの子本当にどういう思考回路してるのかしら。それに林田室長に話がいけば社長にも筒抜けになりそうだし、そうなると困るのはチーフだと思うんだけど。一体なにを考えて彼女を放置してるのかしらね」

呆れ気味にため息をついた恵梨香が「やめやめ、ご飯は美味しく食べないとね」と切り替えてフォークを動かし始める。

(チーフがなにを考えてるのかは置いておいて、近藤さんが退職するまであの調子なのは困る。それに、副社長になんて返事をするべきなのか……)

元恋人との修羅場を切り抜けるためについた嘘が、まさかこんなことになるなんて考えもしなかった。

たしかに周囲からの視線は気になるし、あんな別れ方になった孝充に対して思うところはあるが、当てつけのために結婚したいかと言われれば、そこまでの未練はない。

恋愛感情を持っていない相手と結婚するだなんて考えたこともなかったし、その相手が自社の副社長ともなれば想像することすらおこがましい気がしてしまう。