ようやく一通りこなせるようになったと思った矢先、亮介の秘書を務めていた当時の秘書室チーフである佐竹が家庭の事情で退職することになり、代わりに凛が抜擢された。

突然の辞令に、他にも優秀な先輩秘書がいる中でなぜ自分が選ばれたのかと尋ねると、社長が第二秘書だった凛を推してくれたのだと知った。

同じ第二秘書なら年次が上の孝充が妥当な気もしたが、彼は佐竹の後任のチーフとして役職がつくため、なにかと外に出ることの多い副社長の秘書は別の人員がいいと決定されたらしい。

選ばれたからにはしっかり役に立たなくてはと、この半年は寝る間も惜しんで仕事に励んだ。

亮介の秘書は凛ひとりしかいないため、これまで第一秘書の林田と第二秘書の孝充と凛の三人でしていた業務を、実質ひとりでこなさなくてはならない。

もちろんグループ秘書からサポートを受けられるが、副社長管轄の企画になると、社内とはいえ守秘義務もある。

秘書同士でも話せない内容もあるため、ほぼひとりで亮介の周りの雑務を請け負っていた。

亮介は秘書として未熟な凛に決して呆れることなく、この半年厳しく育ててくれた。

今、こうして彼の秘書としてなんとか業務をこなせているのは、基礎を教えてくれた恵梨香や孝充の教育はもちろん、亮介の厳しいが丁寧な指導の賜物だと思っている。