いくら仲のいい先輩とはいえ、『実は副社長に突然プロポーズされて迷ってて』などと迂闊に相談できるはずがない。

たとえ相談したとしても、きっと信じてもらえないだろう。いまだに凛本人でさえも夢だったのではと思うほど現実味がないのだ。

「まぁそっか。女嫌いでおなじみの堅物副社長だもんね。凛はよく彼に仕えてるよ」
「真面目で厳しいかもしれないけど、優しい人ですから」

あっさりと信じてくれた恵梨香に内心ホッとしながら、つい亮介を庇う言葉が口をついた。

凛は入社して四年目だが、始めから副社長付きの秘書だったわけではない。

秘書室に配属されて始めの二年間は、グループ秘書と呼ばれる業務に携わっていた。

ひとつ上の恵梨香は優しく丁寧に指導してくれたため、希望していた企画部には行けなかったが仕事は楽しかった。

その後、孝充の下で社長の第二秘書となり重役秘書のイロハを叩き込まれたが、誰かに褒められたり表に出る仕事ではないのに責任は重く、細かい部分にまで気を遣わなくてはならない業務に、初めのうちはてんてこ舞い。

来客や電話対応、会議などの資料作成はもちろん、スケジュール管理、出張の交通便や宿泊先の手配、会食のセッティング、慶弔や時候のやりとりなど、業務は多岐に渡る。