しかし大きな傷みは感じず、その原因はわかりきっていた。

「で? 副社長とはどうなってるの?」

ここからが本題とばかりに身を乗り出す恵梨香に、凛は口にしたお冷を吹き出すところだった。

「えっ、え? どうして副社長が……?」
「近藤さんがドアを開けっ放しで追いかけていったから、廊下の声が聞こえてたのよ。彼女的には自分が立花さんに勝ったと知らしめたかったんだろうけど、結局は副社長に返り討ちになったのが露見しただけっていうね」

自業自得よね、と恵梨香が笑ったところで、注文したパスタが運ばれてきた。

いただきますと手を合わせてフォークを動かしながら、話題は亮介の話へと移っていく。

「話が途中になっちゃったけど、チーフに未練がないのは本当に副社長に口説かれたから?」
「まっ、まさか! あんなところで揉めていたから、機転を利かせて助けてくださっただけです」

トマトソースのパスタを口に運びながら、嘘はついてない、と言い聞かせて罪悪感と一緒に飲み込む。

亮介はあの場から凛を助けるために一芝居打ってくれただけだ。

(うん、口説かれてはいない。……結婚は申し込まれたけど)