誰が注意しても暖簾に腕押しで、秘書室をまとめている孝充が芹那を諫めるべきだが、なぜか彼女の暴挙を黙認しているのだ。

凛は憤慨する恵梨香に曖昧に微笑んだが、まったくもって同意見だった。

さらには連れ違いざまに「まだ辞表、出してないんですかぁ? そろそろパパに話しちゃいますよぉ」と耳打ちされるなど、フラストレーションは溜まっていく一方である。

「近藤さんも酷いけど、チーフもチーフだよ。前にも思ったことあるんだけど、チーフって公私分けるの苦手なのかもね」
「え? どういう意味ですか?」
「なんていうか、プライベートでなにかあると良くも悪くも仕事に響くタイプって感じ? 立花さんと付き合い出した頃のチーフの機嫌のよさは笑っちゃったし。忙しくてプライベートどころじゃない時期なんかは、どことなくピリピリしてる感じがした」
「……なるほど」

恵梨香の説明に納得する。確かに孝充は真面目がゆえに神経質で、完璧主義のきらいがあった。自分が決めた通りに物事が運ばないと許せないようで、予定調和を好むといえば聞こえはいいが、融通の利かないタイプでもあった。

「とはいっても、今のチーフはとても結婚が決まって幸せいっぱいには見えないけどね。あの日、チーフが立花さんを追いかけていった後の近藤さんの顔、写真に撮っておけばよかったわ」

廊下で対峙した芹那を思い出すと、今でもぎゅっと胸が疼く。