アンティーク扉が目を惹く西洋風の外観に、ぬくもりを感じるナチュラルウッドの内装は、日々忙しく働いている人々の疲れを優しく癒やしてくれるような居心地のよさだ。

「素敵なお店ですね」

注文を済ませ、初めてこの店を訪れた凛が店内を見回しながら言うと、恵梨香も微笑んで頷いた。

「そうなの。最近見つけたんだけど、味も本格的でめちゃくちゃ美味しいのにすごくリーズナブルで。すっかり常連になってるわ」
「案外会社から近いのに、気付かないものですね」
「うんうん。ってそんなのはどうでもいいのよ。原口チーフと近藤さん! なんなのよアレ! 見ててイライラするどころじゃないんだけど!」

原口と芹那の結婚報告以降、秘書室内の雰囲気は明らかに悪くなっている。

それというのも、秘書室のメンバーが凛と孝充の関係を察していたのもあるが、芹那が以前よりも輪をかけて仕事をしなくなったにもかかわらず、孝充が彼女に注意しないからだ。

特に凛が頼む雑務は百パーセント理由をつけて撥ねつける。簡単なおつかいを頼めば妊娠を理由に長時間は歩けないと断り、資料の出力を頼めばコピー機の使い方がわからないと孝充に泣きつき、結局ふたりで作業する始末。