そうなった時、打算的に結婚してしまっていたら、取り返しがつかない。

彼ならバツイチだろうと引く手あまただろうが、やはり戸籍は綺麗なままの方がいいのではないか。

凛が端的に説明すると、亮介が目を細めて微笑んだ。

「本当に君は、自分より人のことばかりだな」
「え……?」

今は副社長室にふたりきりなので、先程のように恋人の演技をしているわけではない。それなのに凛を見つめる亮介は、小さな笑みを湛えている。

滅多に見られない不意打ちの笑顔に、ドキンと胸が高鳴った。

「立花となら、俺は後悔しない」
「副社長……」
「決して無理強いはしない。だが、君がこれ以上嫌な思いをしないよう、俺に守らせてほしい」

まさかそんな風に言ってもらえるとは思わず、真摯な言葉に胸を打たれる。

唐突な結婚話は、きっと自分の秘書の無様な修羅場を見てしまった同情から提案してくれたもの。