互いに恋愛感情を持っていないが、なんらかの事情で婚姻関係を結ぶ。

夫婦として一緒に住むが、居住スペースは完全に分断されていて、男女の関係というよりはシェアハウスのようなものを想像してみる。

(欲しいのは結婚しているという事実だけで、夫婦としての実体はいらないってことなのかな?)

世の中にそんな関係性の夫婦がいるのかはわからないが、亮介から提案されているのは、そういったドライな契約なのだろうと思われる。

すると、凛の言葉をすぐさま亮介が否定する。

「紙切れだけの婚姻関係にするつもりはない。一種の契約結婚ではあるが、一緒に住んで夫婦として生活するし、結婚する以上、俺は不誠実な真似はしない」

真摯な言葉に息をのむ。

今さっき元恋人の不誠実な真似を突きつけられたばかりの凛にとって、亮介の言葉は胸に刺さるものがあった。

「仕事を続けてもらえるのなら、他の生活に関する事項はすべてこちらが負担する。家事はハウスキーパーを雇えばいいし、他に要望があれば言ってくれ。結婚しても秘書としての君を手放したくない」