さりげなく恋人の有無を確認したが、至極真っ当な切り返しに口を噤む。

「立花なら父も君の働きを知っているから好印象だし、なにより一緒にいて苦痛を感じないのは大きなポイントだ。仕事で四六時中一緒にいるが、居心地が悪いと思ったことがない」
「きょ、恐縮です」
「原口たちのせいで優秀な君に辞められては困る。もちろん他からの圧力で社員を解雇するような会社ではないつもりだが、専務はどうも近藤の父親の大学の後輩らしく、頭が上がらないらしい。変な難癖をつけられても困るだろう。それに、このままだと秘書室に居づらくないか?」
「それは……」

たしかに秘書室では凛と孝充が付き合っていたのはほぼ周知の事実で、気を遣わせてしまうのは間違いない。

優しい人たちなのでむやみに詮索はされないだろうが、同情が含まれていそうな視線は居心地が悪い。

働きにくくなるくらいなら辞めてしまえと思われるかもしれないが、一流企業の今ほど待遇のいい転職先が見つかる保証はない。母に女手一つで育ててもらい、下には大学生の弟と高校生の双子の妹がいるため、給料のほとんどを家に入れカツカツの生活をしている。

たかが失恋で会社を辞められるほどの余裕はないし、なによりリュミエールで働くという夢を叶えたのだから、絶対に辞めたくない。