父が十年前に他界し、母は女手ひとつで四人の子供を育てているため、決して裕福ではない。

そんな凛と結婚することで、一体なにが亮介にとってメリットになるというのか。

珍しく疑問が顔に出ていたらしく、亮介は凛の求める答えを教えてくれた。

「君も知っているだろう。ここ数年、年頃の娘を持つ社員や取引先から何度も『結婚はまだか?』と聞かれてうんざりしている」

凛は躊躇いがちに頷いた。

亮介は副社長という立場ではあるがまだ未婚で、幼い頃からの許嫁や決まった婚約者などはいない。

そのため、あらゆる方面からひっきりなしにお見合いや縁談話が持ち込まれる。

そのたびにうんざりした顔で釣書や写真を凛に寄越すと、「丁重にお断りしておいてくれ」と毎回すべての話を拒否していた。

「この年で親に恋人のひとりも紹介をしたことがないせいか、両親を心配させているらしい。このままだと無理やり縁談を纏められかねないし、かといって毎回気を遣いながら断るのはストレスなんだ」
「それはわかりますが、どうして私なのでしょう? 副社長でしたら、もっと相応しいお相手がいらっしゃるかと。お付き合いされている方はいらっしゃらないのですか?」
「そんな相手がいたら、君にこんな話を持ちかけない」