「本気で……私と結婚をとお考えなんですか?」
「もちろんだ」

迷いなく頷かれ、凛は困り果てた。

孝充に裏切られてショックだったが、別れ話での誠意のなさや、今の芹那に対する態度を見ていれば、彼に未練などひとつもない。

それをふたりに、特に敵意を向けて退職を迫ってくる芹那にわかってもらうためには、凛に新しい結婚相手がいると分からせるのが一番であるような気もするが、まさか自社の御曹司である亮介にその相手をさせるわけにはいかない。

堅物だと言われていても、その冷徹な仮面の下には優しい一面があるのをこの半年で知った。

けれど、まさか凛にここまで心を砕いてくれるとは思ってもみなかった。

「ふたりへのあてつけに副社長を巻き込むなんて……そんなことはできません」
「いや。君のためばかりということでもない。俺にもメリットはある」

大企業の御曹司であり、自身も副社長のポストに就く亮介と違い、凛は至って普通の一般家庭に生まれ育った。