「あの、副社長。先程は申し訳ございませんでした」

深々と下げた頭を上げると、美しい並行幅の二重の瞳がじっとこちらを見つめている。

内心はドキドキと焦っていたが、無表情な秘書の仮面を貼り付けて落ち着いた口調で続けた。

「社内であのようなお見苦しいところをお見せしてしまい、大変反省しております」

亮介が恋人のふりをして助けてくれたことには触れずに謝罪の言葉を述べる。

肩を抱く力強さや、初めて見た柔らかい眼差しを思い出すと、なぜか心が落ち着かなくなるのだ。

早々に話を切り上げて立ち去るべく、凛がもう一度頭を下げて踵を返そうとしたところに、亮介の低すぎない淡々とした声が彼女の身体の動きを止めた。

「立花、俺と結婚しないか」

突然の問いかけに凛は自分の耳を疑った。

(今、結婚って言った? いえ、まさか。なにかを聞き間違えたんだわ。さっきのことで、まだ動揺してるのかも)