いつだったか出勤前にジョギングをしていて、休日の時間がある時にはジムに行っているという話を会食に同席した際に聞いたことはあるが、凛が亮介のプライベートについて知っている情報といえばその程度だ。

そんなストイックな生活をしている亮介が、わざわざ部下の揉め事に首を突っ込んで助けてくれるとは驚きだったが、それ以上に情けないところを見られてしまった羞恥心が先にくる。

(揃って秘書室内の人間で修羅場だなんて、きっと呆れられた……)

頭を抱えて踞りたくなるが、冷めたコーヒーを亮介に出すわけには行かない。

もくもくと芳醇な香りを漂わせるコーヒーを手に、再び副社長室へ向かった。

「企画部とのミーティングは十時に第一会議室を取っております。資料は共有ファイルにございますのでご確認ください。十三時からワタセドラッグの専務とのランチのお約束ですが、あちらの秘書の方がお店を用意してくださるとのことでしたのでお任せしております。お車は手配してありますので、十五分前には下にお願いいたします」

その後も、何事もなかったかのようにその日のスケジュールを確認し、共有すべき情報をいくつか交わした。

いつもならそのまま一礼して秘書室のデスクに下がるのだが、今日はそういうわけにはいかない。

亮介から話を振らないのは、彼の優しさに他ならないのだ。それに甘えてそのまま忘れておいてほしいというのは虫がよすぎるだろう。