副社長室へ入り、亮介の脱いだスーツの上着をハンガーにかけると、コーヒーを淹れるために一旦退室する。
彼はコーヒーに拘りはないようだが、様々な種類を試すうちに表情で好みを推し量れるようになった。
焙煎度合いは深煎りで、苦味やコクの強いものが好きなようで、凛はコーヒー専門店で何種類か購入しストックしている。
今日はインドネシア産のコーヒーを選んで淹れながら、凛は項垂れそうになるのを必死に堪えた。
(どんな顔をしていればいいの……)
普段からあまり感情を顔に出さない凛だが、亮介は輪をかけてポーカーフェイスだ。
ボスがなにを考えているのかを読み、先回りして快適に働ける環境を作るのが仕事で、最近ではそれを以前よりはこなせていると自負している。
しかし今回のようなイレギュラーなハプニングに対し、亮介がどう感じているのかを推察するには、プライベートの彼を知らなさすぎる。
無愛想だとか堅物だとか言われているだけあって、亮介は仕事以外にはまるで興味がなさそうだ。
女性の影を感じたこともなく、酒の飲みすぎで二日酔いのところを見たこともなければ、どこかへ旅行したという話も聞かない。